夕焼けに笑う親子と「家庭」の居場所

子どもたちは、なぜ生きることを諦めてしまうのか?

―過去最多538人の自殺から考える「家庭」という居場所―


家庭が子どもに与えてあげられる安心とは?

2025年、日本で自ら命を絶った小中高生は538人。

統計のある1980年以降、過去最多となりました。

日本全体の自殺者数は減少しているにもかかわらず、子どもたちの自殺は深刻な状況が続いています。

538人。

この数字の向こうには、538人のかけがえのない命があり、それぞれの人生がありました。

私たち大人は、この現実から目を背けてはいけないと思うのです。

なぜ、子どもたちは生きることが苦しくなってしまうのでしょうか。

そして、私たち大人には何ができるのでしょうか。

心理カウンセラーとして、そして一人の母親として、今日は「家庭」という居場所について考えてみたいと思います。


子どもの自殺、その背景にあるもの


警察庁と厚生労働省が公表した2025年の自殺統計によると、小中高生の自殺の原因・動機として多く挙げられたのは、次の問題でした。

  • 学校問題:251件

  • 健康問題:174件

  • 家庭問題:147件

※原因・動機は複数計上されており、一人の自殺に複数の事情が関係している場合があります。また、統計に記録された事情が、本人の苦しみのすべてを表しているわけではありません。

学校問題には、学業不振や進路の悩み、友人関係などがあります。

健康問題には、心身の病気や不調などが含まれます。

家庭問題には、親子関係の不和や家庭内のさまざまな問題があります。

ここで大切なのは、自殺には、たった一つの原因があるとは限らないということです。

学校での人間関係に悩み、勉強にもついていけず、家庭でも自分の気持ちを話せない。

そんなふうに、いくつもの苦しみが重なってしまうことがあります。

だからこそ、子どもたちには、安心して心を休められる場所が必要なのです。


家庭は、子どもにとって安心安全な場所ですか?


私たち親は、子どもに幸せになってほしいと願っています。

そのために、勉強を頑張ってほしい。

学校にはちゃんと行ってほしい。

将来困らないように、社会のルールを身につけてほしい。

そう思うこと自体は、決して悪いことではありません。

でも、いつの間にか、その願いが「こうあるべき」「こうしなければならない」という要求に変わってしまうことがあります。

「どうして学校に行かないの?」

「もっと頑張りなさい」

「そんなことでは将来困るよ」

親は子どものためを思って言っているつもりでも、子どもにとっては、自分を否定されているように感じられることがあるのです。

そして、親の期待に応えられない自分を責めてしまう。

心理学では、安心できる人間関係を考えるうえで「心理的安全性」という概念があります。

自分の気持ちや考えを表現しても、頭ごなしに否定されたり、責められたりしないという安心感です。

では、家庭に心理的安全性があるかどうか、どうすれば分かるのでしょうか。


安心できる関係とは、たわいもない会話ができる関係


私が心理学を学んでいたとき、トレーナーから教わった言葉があります。

「安心できる関係とは、たわいもない会話ができる関係」

私は、この言葉がとても心に残っています。

例えば、

「今日、こんな面白いことがあったよ」

「ねえねえ、これ見て!」

「この動画、めっちゃ笑える!」

そんな、何でもない会話。

特別な相談でもなければ、深刻な話でもありません。

でも、実はこうした会話ができる関係こそ、大切なのではないでしょうか。

親の機嫌をうかがわなくてもいい。

話しかけたときに、怒られるかもしれないと身構えなくてもいい。

くだらない話をして、一緒に笑える。

そんな日常の積み重ねが、子どもにとっての安心感につながっていくのだと思います。

そして、その安心感があるからこそ、本当に困ったときに「助けて」と言いやすくなるのです。


娘が私に話せなかった、本当の理由


実は、私自身にも苦い経験があります。

私は昔、いつもイライラしている母親でした。

神経質で、娘に対して「こうあるべき」「こうしなければならない」という考えを押し付けていました。

娘には発達障害があります。

周囲の子どもたちと同じようにできないこともありました。

でも当時の私は、娘の特性を十分に理解できていませんでした。

そして、娘は不登校になりました。

学校へ行かせようとすると、熱を出すのです。

なぜなのか、私には分かりませんでした。

どうして学校へ行けないのだろう。

どうして普通にできないのだろう。

そんなことばかり考えていたように思います。

その後、私は心理学を学びました。

自分自身の心と向き合い、考え方や子どもとの接し方を変えていきました。

以前のようにイライラすることも、子どもの前で落ち込むこともなくなりました。

そして、娘とたわいもない話をして、一緒に笑える関係になったのです。

そんなある日、私は娘に聞いてみました。

「Mちゃんは、どうして子どもの頃、学校に行きたくなかったの?」

すると娘は、こう答えました。

「私はね、周りの子と違ったし、合わせられなかったから、いじめられてたの」

私は驚きました。

「えー! なんでママに話してくれなかったの?」

すると娘は、こう言ったのです。

「ママを困らせると思ったんだよ。でも今のママになら言えたかもね」

私は、その言葉を今でも忘れられません。

娘は、学校でいじめられていたのです。

そして、その苦しみを母親である私に話せなかった。

私を困らせたくなかったから。

当時の私は、娘を学校へ行かせることばかり考えていました。

でも、娘に必要だったのは、学校へ行くように促すことではなく、まず、その苦しみに気づき、安心して話を聞いてもらえることだったのかもしれません。

私はこの経験から、大切なことを学びました。

親が子どもを愛していることと、子どもが親に安心して何でも話せることは、必ずしも同じではない。

親がどれほど子どもを思っていても、その思いが子どもに伝わっているとは限らないのです。


子どもは、親の顔色を見ている


子どもは、大人が思っている以上に、親の表情や声の調子、家庭の雰囲気を敏感に感じ取ることがあります。

親がいつもイライラしている。

何か話すと、すぐに注意される。

失敗すると、ため息をつかれる。

そんなことが続けば、子どもは自分の気持ちを話すより、黙っている方が安全だと学んでしまうかもしれません。

また、親を心配させたくないという思いから、自分の苦しみを隠す子どももいます。

私の娘が、そうだったように。

だから、子どもが何も話してくれないからといって、悩みがないとは限りません。

「うちの子は大丈夫」

そう思っていても、子どもが一人で苦しみを抱えている可能性はあるのです。

もちろん、子どもが悩みを話さない理由はさまざまです。

親子関係が良好でも、話しにくいことはあります。

だからこそ、無理に聞き出そうとするのではなく、話したくなったときに話せる関係を、日頃から育てておくことが大切なのだと思います。


子どもの命を守るために、私たち大人ができること


私は、子どもの自殺が増えていることを、親だけの責任だとは考えていません。

いじめ、学業や進路へのプレッシャー、心身の不調、経済的な問題など、子どもたちを取り巻く環境には多くの課題があります。

家庭が安心できる場所であっても、学校や社会の中で深く傷つくことはあります。

そして、家庭そのものが苦しみの原因になっている子どももいます。

だから、家庭だけでなく、学校や地域、社会全体で、子どもが安心して助けを求められる環境をつくる必要があります。

そのうえで、家庭でできることもあります。

それは、特別なことではありません。

子どもの話を、評価せずに聞くこと。

失敗しても、責める前に気持ちを尋ねること。

親の考えと違っていても、子どもの思いを尊重すること。

そして何より、たわいもない話をして、一緒に笑える時間を大切にすること。

親だって人間です。

イライラする日も、落ち込む日もあります。

いつも笑顔でいる必要はありません。

大切なのは、親自身も自分の心を大切にし、必要なときには助けを求められること。

そして、子どもとの関係がうまくいかなくなっても、そこから関係を築き直すことはできるということです。

私自身が、そうだったように。


「ただいま」と帰ってきたとき、安心できる場所であるために


学校で嫌なことがあった日。

友達とうまくいかなかった日。

何もかも嫌になってしまった日。

そんなとき、家に帰ってきて、ホッとできる。

何も話さなくてもいい。

無理に笑わなくてもいい。

頑張れない日があってもいい。

そして、話したくなったら、いつでも話せる。

そんな場所が、子どもたちには必要なのだと思います。

子どもにとって大切なのは、親の期待どおりに生きることではありません。

「あなたは、あなたのままで大切な存在なんだよ」

そう感じられることではないでしょうか。

2025年、538人もの小中高生が自ら命を絶ったという現実。

その一人ひとりが、どのような苦しみを抱えていたのか、私たちにはすべてを知ることはできません。

だからこそ、分かったつもりにならず、子どもたちの声に耳を傾け続ける必要があるのだと思います。

今日、あなたはお子さんと、どんな会話をしましたか?

学校のことでも、勉強のことでもなくていいのです。

くだらないことで笑い合える。

そんな何気ない時間を、どうか大切にしてください。

子どもが安心して生きられる社会は、子どもの声を大切にすることから始まる。

私はそう信じています。



【参考資料】

厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課(2026年3月27日)

『令和7年中における自殺の状況』

参照箇所:2ページ「図表1-2」、18ページ「図表3-4」




【大切なお知らせ】

お子さんが「死にたい」「消えたい」と口にしたときは、軽く受け流さず、落ち着いて気持ちを聞いてください。

責めたり、無理に励ましたりせず、必要に応じて医療機関や専門の相談窓口につながることが大切です。

差し迫った危険がある場合は、一人にせず、救急などの緊急支援を求めてください。

また、家庭で安心できない子どもたちにも、家庭以外に頼れる大人や相談先があります。

一人で抱え込まないでください。

相談先:厚生労働省「まもろうよ こころ」など




🌷 子どもとの関係に悩んでいるあなたへ

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大切なのは、子どもを思いどおりに変えることではなく、お互いを尊重しながら、安心できる関係を育んでいくこと。

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